武蔵野市国際オルガンコンクールを育ててきた人々〜武蔵野文化事業団編〜

 約20年間にわたって武蔵野市国際オルガンコンクールの運営に携わってこられた武蔵野文化事業団の和田能さんに、武蔵野市国際オルガンコンクールの歩みとこれからについて、お話を伺いました。

武蔵野市民文化会館ロビーにて。右:和田能さん、左:伊達摩彦(学生)。

<市民に親しんでもらえるコンクールへ>
伊達:和田さんはこれまで、どのようにして武蔵野市国際オルガンコンクールに関わってこられたのですか?

和田さん(以下敬称略):2000年の第4回コンクールから関わり始め、第5回目(2004年)から本格的に事業の企画や運営に携わってきました。

伊達:オルガンコンクールの運営にはどういった方々が関わっておられるのですか?

和田:大きなプロジェクトなので、文化事業団、オルガニストの方々、市が一体となって運営し、地元の商店街などにもフラッグの掲出などでご協力いただいています。

伊達:なるほど。これまで運営されてきた実績を振り返ってみていかがですか?

和田:オルガニストの世界では国際的にも知られるようになりましたが、一方でオルガンという楽器は、まだまだ一般の方には馴染みが薄いなぁと思います。実はコンクールの回によって、目指すところが微妙に変わってきているんですね。第5回目くらいまでは「世界に通用するコンクールを目指そう!」という感じでした。けれども、「まだまだ市民に浸透していない」という評価をいただいたこともあり、第6回目あたりからいかに市民にコンクールの存在を広めていけるか、いかにより市民に還元できるかということもテーマに据えるようにシフトしてきたんです。

伊達:第6回が転機となったのですね。市民に広めるために、どのような活動に取り組んでこられたのですか?

和田:コンクールと連動して、市内のコミュニティセンターや学校に小さなオルガンを持って行ってオルガンのミニ・コンサートを開く等の普及事業を行なっています。それから、子ども向けの公演を夏休み期間に開催したり、吉祥寺のアトレという商業施設の中にあるイベントスペースでちょっとしたコンサートを開いたりもしていますね。

伊達:アトレだと、通りがかりの人が聴くこともできそうですね。

和田:そうですね、ホールになかなか足を運んでもらえない方にも興味を持っていただくことが大切です。演奏はプロのオルガニストの方々にお願いしていますが、みなさん喜んで引き受けてくださいます。また、国内外から招聘する審査委員によるコンサートも開催されます。

伊達:一般の方がコンクールを観覧することは可能なのですか?

和田:もちろんです。予選も本選も公開しているので、1000円程度のチケットを購入していただければ観覧可能です。特に本選や入賞者披露演奏会はほぼ満席になりますよ。

<パイプオルガンは「自分たちのもの」>
伊達:11月12月に、パイプオルガン体験会(*1)を実施されたと伺いました。
(*1)「パイプオルガン体験 気軽に巨大な楽器を弾いちゃおう!」。2020年11月・12月に武蔵野市民文化会館で実施(好評につき、インタビュー後の2・3月にも実施)。子どもから大人まで、経験不問でどなたでも10分間自由にパイプオルガンに触れてもらおうという趣旨のイベント。

和田:はい。パイプオルガンに実際に触れる機会はなかなかないと思うので、せっかくなら体験会というかたちで市民の皆様に触れてもらおうということになったんです。

伊達:参加された方の反応はいかがでしたか?

和田:パイプオルガンがある小ホールに初めて足を踏み入れたという人もけっこういらっしゃったので、まず、「わー! こんなに大きいんだ!」という反応をされていましたね。

伊達:パイプオルガンに限らず、そもそも音楽やホールに馴染みのなかった方に来てもらえたということですね。

和田:アンケートを集計したものがこちらです。「ここに、こんなオルガンがあるなんて知らなかった」「すごくよかった」「音色を自在に変えられることに感動した」「ちょっと弾いてみただけでとても満足感があった」といったコメントをくださっています。

伊達:「住民税を払っている甲斐がある」という生々しいコメントもありますね(笑)。

和田:そうですね(笑)。実際に目で見て弾いてみると、市民である自分の楽器という意識というか、親密感を抱いてもらえると思うんです。

伊達:「自分たちのもの」と思ってもらうことが大切なのですね。武蔵野市民文化会館の運営全般についてもお話を聞かせてください。公の施設のモニタリング評価(*2)では、「A(期待以上の評価をあげている)」との評価を受けていらっしゃいますよね。そうした高評価を受けたことはどのような点が評価されてのことか、あるいは今後の課題だと認識していらっしゃることはありますか?
(*2)「令和2年度 武蔵野市公の施設のモニタリング・評価」。当該施設を管理・運営する指定管理者が条例や基本協定等に基づき、適切かつ確実なサービス提供を行っているかを確認し評価したもの。各施設はS(他自治体の同種の団体や民間企業等と比較して優れている。または、他にはない創意工夫や独自の取組みを行っている)、A(期待以上の成果をあげている)、B(期待どおりの適正な運営が行われている)、C(期待する水準に達していない)にランクづけされている。

和田:たしかに、来場された方々には良い評価をいただけていると思います。ただやはりオルガン体験会などを企画してみると、ホールに足を踏み入れたことのないという方が多くいらっしゃるので、まだまだ市民の皆様に浸透させていく必要があるなと感じます。

伊達:体験会のようなイベントをやってみることで、いわば「潜在的な観客(対象者)」が見えてきたということですね。

インタビューの様子。右:和田能さん、左:伊達摩彦(学生)。

<音楽のタネを蒔く>
伊達:オルガンコンクールに話を戻しますが、次回は来年度に開催されるのでしょうか?

和田:コロナの影響もあって、まだ詳細は決まっていないんです。準備期間が必要なので、コンクールそのものは早くて再来年(2023年)かと思います。

伊達:プレイベントの計画はもう動き出しているのですか?

和田:はい。来年度は「風琴サロン」というイベントを予定しています。オルガンって、「風琴」とも言いますよね。このイベントは一般社団法人オルガン芸術振興会との共催で、サロン形式の小さなコンサートや、オルガンの一部を自分で作ってみる企画なんかを検討しています。

伊達:オルガンを作るんですか!?

和田:横田宗隆さん(*3)という、世界的に知られたオルガン製作家の方がいらっしゃって、その横田さんに加わっていただく予定です。武蔵野のパイプオルガンのメンテナンスもしていただいているんですよ。
(*3)横田宗隆オルガン製作研究所代表。ヨーロッパ各地に残る古いオルガンや建造当時の製法を研究し、今日、その方法を用いてオルガンを製作する名工。

伊達:演奏家以外の方にも協力していただいているんですね。

和田:このシリーズの中には、障がい者向けイベントなどもあり、より対象を広げていくことも考えています。

伊達:様々な方にアプローチしていくということですね。

和田:今までは、コンクールがある年度やその前年度を中心にプレイベントを用意してきたのですが、これからはもっと日常的なイベントとして、より一層力を入れていきたいと思っています。「コンクールをやるから来てください」っていきなり言われても、じゃあ行こうとすぐにはならないじゃないですか。

伊達:なんとなくハードルが高く感じてしまいますね。

和田:ええ。だから時間をかけて土を耕すというか、音楽のタネを蒔くというか、そういう地道な活動を増やしていきたいと考えています。

<武蔵野市のパイプオルガン文化の今後>
和田:オルガンコンクールですが、実は前回の第8回を最後に、武蔵野市からの負担金の見直しが行われ、文化事業団の自主事業に位置付けが変わっています。

伊達:負担金が廃止になったと聞きますが、その理由は?

和田:第8回まで続けてきて、優秀なオルガニストの発掘・育成という当初の目的から、次の段階への事業展開が必要だという評価と、市民への浸透を図るためには、従来と違った企画が必要ということです。コンクール開催のための負担金に代わって、市は、オルガン啓発のための経常的事業に対して継続的に事業費を支出するようになりました。

伊達:それはかなり大きな変化だったのではないですか?

和田:はい。これからは自分たちで資金を調達していかなくてはなりません。クラウドファンディングなども視野に入れてはいますが、いずれにせよそのためには事業を通じてファンをもっと増やさなくては。

伊達:思えば、オルガンファンっていう人はあまり身近に聞いたことがありません。

和田:クラシックの一部ではあるけれど、ちょっと違いますよね。パイプオルガンの曲は今も欧米のキリスト教的精神を体現したものの一つだと思うのですが、日本ではコンサートホールの中にオルガン文化があるというのがちょっと独特ですね。

伊達:日本ならではと言える文化のあり方ですね。なんだかずっと話を伺っていたら、ますます小ホールのパイプオルガンを生で拝見したくなってきました。見学させてもらえますか?

和田:どうぞどうぞ。ではご案内しましょう。

快くインタビューを引き受けてくださった和田能さん。終始にこやかにお話ししてくださいました。ありがとうございました!

 このあと、武蔵野市民文化会館小ホールにあるパイプオルガンを見学させていただきました。別記事「武蔵野市国際オルガンコンクールを育ててきた人々<番外編>〜武蔵野市民文化会館訪問記〜」も併せてお読みください。

インタビュイー:武蔵野文化事業団 事業課 担当課長 和田能さん
取材実施日  :2021年2月12日(金)
取材場所   :武蔵野市民文化会館
聞き手    :伊達摩彦、金成めい
写真撮影   :金成めい
文責     :伊達摩彦

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