第一部 ソーシャルアートビュー体験記

 第一部の体験記編では、実際に対話型絵画鑑賞ソーシャルアートビューを体感した感想と、対話を通じて絵画鑑賞を行うプロセスを記録しました。

学生による体験記 〜2021年1月オンラインにて〜

 この日Zoomで行われたソーシャルアートビューに参加したのは、進行役の林さんの他に、東京大学・成蹊大学の4人のインターン生(学生)と、一般参加で集まった40代〜60代の女性3人。さらに、元CGデザイナーで全盲の難波創太さんナビゲーターとして参加しました。
 ソーシャルアートビューとは、芸術作品を見るグループと作品を見ない/見ることができないグループに分かれ、グループ間で対話をしながら作品を見ているグループが言葉だけでその作品を見ていないグループに伝えていく、対話型グループ作品鑑賞。今回は、一般参加の3人とインターン生4人が、作品を見るA班と作品を見ないB班に分かれてソーシャルアートビューを行いました。鑑賞したのは、こちらの作品。

『Claude Monet – Arrival of the Normandy Train, Gare Saint-Lazare,1877』

先入観を持たないように、この時点では作者名やタイトルなどの情報は何も与えられずにソーシャルアートビューは始まります。
冒頭、ナビゲーターの難波さんの「これは絵ですか?」という質問から対話がスタート。絵ですねとA班が答えると、続けて「縦長?横長?」とまずは作品の外形的な部分を確認していきます。

A班「風景画?近景画ですね。場所は昔の駅ですね。ヨーロッパの昔の駅という感じで、ホームがきちんとできる前の駅ですね。その時代なので、電車ではなくて、機関車がモクモクと煙を立てながら停車しています。」

難波さん「けっこうリアルに描かれていますか?」

A班「パステルなタッチで、詳しくというよりは、ペタペタペタペタという油絵のタッチで描かれています」

難波さん「油が厚塗りされている感じ?」

A班「そうですね。いろんな色が重ねられながら、全体的にはくすんだ感じのグレーと緑で描かれています。」

A班と難波さんの対話だけを材料にて作品を想像していくB班のメンバーは、思い浮かべた絵を手元の紙にスケッチ。そして、途中からはB班のメンバーもスケッチしていく中でわからない点をA班に質問していきます。

B班「駅の中が描かれているということですか?」

A班「イメージ的には、機関車トーマスの写実版みたいな(笑)」

B班「機関車は1台ですか?」

A班「横長の長方形の(絵画全体の)うち、だいたい…下3分の1は地面なんですよ。で、上3分の1が屋根になっていて、それが温室みたいになってるっていうのかなぁ… 屋根というか、車庫の中に画家がいて、車庫の中から外を見ているっていう感じなんですよ。で、外を見ると将棋の駒みたいになってるっていう…」

絵を説明するには、どこが描かれている?何が描かれている?大きさは?色は?時代は?雰囲気は?タッチは?視点は?などたくさんの疑問を解消しなければなりません。普段感覚的に受容している芸術を言葉で説明しようとすると、今まで感じたことのなかったその難しさに直面します。説明してもらう側も、イメージの足りないところを補えるように質問することが難しかったり、無意識のうちに自分で勝手なイメージを作ってしまいがちです。両班で協力しながら作品を鑑賞していくことが、ソーシャルアートビューの難しさであり面白さなのです。
また、作品を正確に伝えることだけでなく、コミュニケーション自体を楽しむことやそれを通じて相手を知ることもソーシャルアートビューの大事な要素です。客観的な情報の伝達に終始するのではなく、絵画の主観的な印象についても話すことがより良いソーシャルアートビューには不可欠となります。

B班「視点としては、駅の奥の方に立って見ているのか、それともちょっと上の方から見ているのか、どっちですか?」

A班「駅舎の手前から奥を見ている感じ」

B班「じゃあ立ってその視点で見ている感じ?」

A班「そうそう、そうです。だから吉祥寺(駅の井の頭線のホーム)から渋谷方面を見る感じで作者は見ていると思う」

A班「遠くに立ってるから全体が見えてるんでしょうね」

難波さん「ひとりひとりを細かく描くのが面倒くさかったのかな…いちばん拘って描いてるのはどこですか?」

A班「その当時の駅の雰囲気じゃないですかね。この同じ画材でいろんな色が描かれているので…やっぱりその駅の雰囲気を出したかったんじゃないですかね」

駅の外は昔の渋谷や品川のよう?地面はサッカーをやりすぎた芝生の色?なんていう話も飛び出しながら、対話は20分間途切れることなく続きました。
時間になって対話が終わり、B班もようやく作品(モネの「サン=ラザール駅」という作品でした)を目にすると「おー」という声。そしてB班が対話をもとに描いたスケッチを見せると、A班からは「けっこう伝わってる!」「すごい!」という感想が行き交いました。

(参加学生のスケッチ)

「スケッチと実際の絵の違いはありましたか?」
「(実際の絵は)思ったより暗くて、もうちょっと光とか差し込んでる感じかと思っていました」
「〇〇さんの絵はいい感じですね〜」
「機関車トーマスの絵に喩えてもらったのが想像しやすくてわかりやすかったです」
「私この絵がポジティブなのか、ネガティブなのかわからなくて、ニュートラルな感じなんですかね」
「でもモネはきっとこの時代の駅の活力、産業の活力みたいなものを現したかったんじゃないですかね。駅にたくさんの人が集まっているのが、当時の人々の期待がそこに集まっているような。」

実際の作品を見ながらスケッチと比べてみたり、A班の説明を改めて振り返ってみたり、作品自体の感想を述べたりして今回のソーシャルアートビューは終了。対話もアフタートークも盛り上がり、充実したソーシャルアートビューとなりました。

(地域の方を交え、Zoomでのソーシャルアートビューを行いました。)

【参加者の感想】

  • アートを通じて楽しさを伴いながら人と交流できるということが面白い。アートとは1対1で向き合ってきたことがほとんどだったので、アートを通じて人と交流できる点が新鮮。アートをどのように見るか、どのような言葉で表現するかを通じて相手のことをよく知れる気がする。
  • 視覚障害者と関わるということから最初は慈善事業的なイメージを強く抱いていたが、そうではなかった。全員がフラットに楽しむことができる印象。
  • 今回は、静止している絵からその中の動きを読み取り、伝えることが多い印象を受けました。自身の感覚を言語化することは難しくはありますが、「そう例えるのか!」と、そこに個人個人の個性が感じられて、非常に面白いと感じます。
  • ソーシャルアートビューの核として「発見したことを伝え合うこと」を教えていただき、また1つ自分にはなかった考え方を知れたことが、参加して良かったと感じています。

【小林ゼミの学生の感想】

  • ソーシャルアートビューでは描かれているものについて伝える時に、つい客観的で正確な情報を伝えることに注力し、自分の主観的な観点を伝えることをためらってしまうことがあります。しかし、ナビゲーターの方の「スケッチは補助的なもので、コミュニケーションが大事」というお話から、自分の感じた印象やイメージをもっと積極的に話し、対話の楽しさを感じることが本来大切であると学びました。(土井)
  • 絵画を見ずに言葉での説明だけを聞いていると、自分が普段どれだけ多くの情報を目から得ているかを痛感します。それと同時に、言葉での情報から絵画を想像することに自由な可能性を感じ、実際の絵画に近づけなくても、想像する楽しさを感じられることがソーシャルアートビューの醍醐味だと思います。(福田)
  • 同じ絵画作品を説明するにしても、人によって全く違う表現や比喩になるのが面白いなと感じています。絵を媒介にして対話することで、参加者それぞれの物の見方を知りあえるのが楽しいです。(林)
  • ソーシャルアートビューを体験した際、対話を通して自分が得られなかった絵の見方やそこから得られる様々な五感のイメージを共有できることが面白いと感じました。この経験を重ねることで、普段の絵画鑑賞体験も違った視点から捉えられるのではないかと思います。(西原)

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第二部 代表理事林賢さんへのインタビューはこちら

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