第二部 林賢さんインタビュー編

 体験記編に引き続き、第二部のインタビュー編では、NPOクリエイティブライフデザイン代表理事である林賢さんの来歴や活動への思いにせまります。※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、インタビューの形式はZoomとなりました。

トトロの背景でZoomインタビューに
登場した林賢さん。
-Profile-
林賢(はやし・まさる)
石川県金沢市生まれ。武蔵野市在住。オフィスデザインやコンサルティング業務など様々なキャリアを経験し、現在はコンピュータシステムの会社に勤務。代表理事を務めるNPOクリエイティブライフデザインで、アートコミュニティ活動「ソーシャルアートビュー」などで社会貢献を目指している。趣味は温泉めぐりと絵画鑑賞。

ファーストキャリア:オフィス空間デザインのプロとして

――林さんはこれまで、どのようなキャリアを築かれてきたのでしょうか?

 学生時代は金沢美術工芸大学で工業デザインを専攻していました。卒業時には、ソーシャルワーカーにヒアリングを重ね、体の不自由な方のための補助具や歩行器などのデザインを行いました。
 ファ―ストキャリアではオフィス総合提案企業のコクヨ株式会社に入り39年間、オフィスデザイン、オフィス研究、ワークスタイルデザイン、コンサルティング事業、新規事業などを担当してきました。一貫してオフィス事業をリードする業務を担当してきて、日本のオフィス改革をリードしてきた第一人者であると自負しています。
 オフィス業界の黎明期には、当時の通産省(注1)から「ニューオフィスに関する研究会」の委員の委嘱をうけ「ニューオフィス第一指針」を作成しました。その後「ニューオフィスミニマム(第二指針)」(注2)を作成。2010年代には総務省より「地方公共団体の職場における能率向上に関する研究会」の委員委嘱で「ワークスタイルを変革する10のワークプレイス改革」などを作成。またコクヨグループのオフィス改革プロジェクトをつとめ、各社のISMS認証やPマーク(注3)取得推進をリードしました。その後業界標準コンセプトの「クリエィティブオフィス」の啓蒙活動も担当していました。
 オフィスデザインの実務では第1回JFMA大賞(注4)を「アクセンチュア本社移転プロジェクト」担当プロジェクトマネージャーとして受賞。自社の「ライブオフィス」(注5)では第8回 日本テレワーク協会優秀賞の企画担当。第19回 COMDEX JAPAN最優秀製品企画賞企画担当など行ってきました。

(注1)通産省:2001年省庁再編により現在の経済産業省に。
(注2)「ニューオフィスミニマム(第二指針)」:一般社団法人ニューオフィス推進協議会が1994年に示した、オフィスづくりに当たり、法律や規則に定められている水準をクリアーした上で、オフィスとして最低限満たすべき22項目。
(注3)ISMS認証やPマーク:両者とも情報を保護するためのマネジメントシステム。
(注4)第1回JFMA大賞:日本ファシリティマネジメント大賞。通称「鵜澤賞」
(注5)「ライブオフィス」:コクヨが提案する自らが開発した製品をオフィスで自ら利用し、実際に社員が働く様子を社外から見学できるようにショールームとして展示する考え方。

サードキャリア:シニア期でも使命感に生きる
 定年退職後は全く違う業種の産業給食の会社に入りました。新規顧客獲得の際には「社食」を様々な組織やモノから触発される「イノベーション」が生まれる場として変革することの重要性を提案し、それを促進する飲食も重要だとする「行動変容を促す-社食2.0」(注6)というコンセプトを作成し、新しいお客様への提案活動をおこなっていました。また経営品質や品質管理の業務からISO、HACCPの推進も担当していました。
 仕事と並行してNPOクリエイティブライフデザインを設立したのは、セカンドキャリアで「デザイン」からあまりにも遠のいてしまったので、デザインとかアートにもう一度触れたいなと思ったからです。今年で5年目になります(2021年現在)。
 二度目の定年退職が近くなって、東京セカンドキャリア塾(注7)で半年間学んでいたのですが、その時に精神科医の神谷美恵子さんの『生きがいについて』という本を紹介されました。その本の中に「人間が最も生きがいを感じるのは、自分がしたいと思うことと義務が一致したとき」とあったのです。「自分のレゾンデトール(存在理由)をはっきりと自覚して、全力で使命感に生きる人になる」ということを教えられました。自分たちが今後もっと高齢になっていく時に、自分が今までやってきた「できること(Can)」と自分の「好きなこと(Want)」によって、「社会に対してなすべき使命(Will)」を明確にし、直ぐに実行していくことが大切だと知ったのです。

三鷹市美術ギャラリーでのソーシャルアートビュー(2019年)。

 そういうところから設立したNPOクリエイティブライフデザインー創造的な生活を提案していくーのミッションは、「人が喜ぶことをして、真善美(まこと)の探求から他者(ひと)が幸せな人生をおくることに貢献する。アートを介して出会いそして対話することでつながりと絆を形成し、社会貢献していく」ということに致しました。「芸術は長く人生は短し」という言葉がありますけど、真実とか、美しいこととかアートとか美術というのは、真善美に通じる重要なことなのではないかなと思います。今、コロナの時代に、アートや美術がなくても生きていけるという人もいるかもしれないですけど、多分芸術とか美術という世界がないと非常に潤いのない、元気の出ない毎日になっていくのではないかなと思うのです。なので、NPOでもそういうことを追求する活動ができたらいいなと思っています。今はボランティアやコミュニティサービスを行っている方々ともお付き合いしているのですが、やっぱり私がやりたいのは、アートを介在させたコミュニケーション活動で、地域福祉活動の多様化に対応していけるような活動にしたいということですね。
 現在はNPOの活動と並行してサードキャリアの会社の中で「おたすけHACCP」(注8)という感染症対策や衛生管理を簡単・便利にするアプリケーションをデザインしています。私自身はサードキャリアの年代になっても、働く意欲はありますし、ちょっと年金を補填する程度には当然収入も欲しい、そんなことを考えています。だから仕事の方でも、シニアになって活かせる能力と自分自身の役割を再定義して、新しい会社の中でもう一度ビジョンとミッションを作っていく。以前よりも社会貢献するための仕事という意識を明確にして今は働いているつもりです。年金では足りない部分を稼いでいくにも、漫然と働くのではなくて自分なりのポリシーを持って働くということです。 

(注6)行動変容を促す-社食2.0 : スマホアプリを利用し従業員ひとりひとりが喫食した食事内容を記録し、健康づくりのための行動記録も行う。それを献立計画にも反映させ行動変容を加速させる統合コンセプトとして社食2.0として提案していた。
(注7)東京セカンドキャリア塾 : 東京都が主催するシニア就業応援プロジェクト。シニアがセカンドキャリアについて考える場。就業支援や就業に役立つ講座を開講している。
(注8)おたすけHACCP : 「HACCP」とは、食品等事業者自らが、食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法のこと。「おたすけHACCP」は写真を撮るだけで感染症対策の可視化や衛生管理のエビデンスを記録できるなどの簡単・便利な飲食店や給食会社向けのアプリ。<https://www.haccpaid.com/>

独りよがりではなく、みんなで走っていくソーシャルアートビュー

――ソーシャルアートビューの活動は、アートを媒介にして福祉活動、地域活動を行っているというイメージなのでしょうか?

 アートを介した地域福祉活動にしたいということですね。現在進行形の活動なので、今はできていないかもしれませんが。いろんな福祉活動の団体とかNPOがあって、お年寄りや子育て中の母親、子供など対象が色々ありますし、体操するとか、歌を一緒に歌うとか、活動の内容も多々あると思いますが、もちろんそういうこともやりたいなと思う反面、やはりアートとかデザインに関わって地域福祉活動に貢献したいと当初から考えています。
 このソーシャルアートビューの活動で裏方になる仕事やファシリテーターの役割を経験していくと、学芸員の仕事の一部もこの活動のなかで必要なので、アートとかデザインとかに興味のある人がリーダーシップをとっていくことが重要じゃないかなというのがわかってきました。
 今までの3年間はどちらかというと一方的にリードすることのほうが大事かなと思っていたのですが、今期もう一度コンセプトを見直そうと思って、実際の学芸員さんや改めて難波さん(注9)の話を訊いて気付いたのは、その場で参加してくれているみんなと一緒に楽しんで考えていく方向性のほうがいいということですね。
 ある一定のフレーム、コンセプトはいるとは思いますが、具体的に行動するときにはみんなで考えて走っていく。その辺が新しいオンラインを含めたソーシャルアートビューの世界でうまく表現できて、来年以降もコロナが収束しなくてもZoomや対面とオンラインを両立したハイブリッド型で地域のつながりを高めていく活動ができればいいのかなと思っています。 

(注9)難波さん:難波創太さん。1995年武蔵野美術大学工芸工業デザイン科卒業。2007年のバイク事故で失明し、以後全盲の中で生活を送る。2015年、「ボディケア・キッチン るくぜん」を開き、鍼灸による治療と薬膳料理をご提供されている。

全盲の難波創太さんとの出会いから地域のつながりをつくるソーシャルアートビューへ

 ソーシャルアートビューをはじめたきっかけは、セカンドキャリアでデザインという自分の好きなコトを仕事のなかで全く活かせないストレスがあったので、40年近くのキャリアで得たデザインの知識をセカンドキャリアの仕事とは別に活かしてみたいなと思ったことです。ラジオで伊藤亜紗さんの本『目の見えない人は世界をどう見ているのか』の紹介があって、伊藤さんにアクセスを試みましたがなかなか会えなくて、本の中にも出てきた難波さんに直接SNSでアクセスしたら、その日のうちにいつでも会いますよと返信がきたので、全盲の方なのにどうしてこんなコミュニケーションができるのかな、と不思議に思って訪ねてみました。

難波さんのサロン「ボディケア・キッチンるくぜん」。

  難波さんは、40歳くらいから新たに鍼灸師を初めて、自分で稼ぐためのフィールドとしてそのサロンを作ったそうです。そのサロンは、非常にデザインや色の感じ、作りが美しくて、「目が見えなくてもおしゃれなサロンを作れるのは、言葉でデザインコンセプトを表現しているからだ」とその時感じました。
 私が非常に関心を持ったのは、通常のサロンの中に、食の空間をうまく取り込んでいたところですね。鍼灸師のサロンは普通白いイメージがありますが、難波さんのサロンは空間のインテリアは薄い清潔な、卵を溶かしてちょっと白に近くなったような黄色でできています。その空間の一画の中央に近いところにベッドがあって、素敵な音楽が流れていて、隅のほうにカウンターキッチンがあるのです。これは何かなと思うと、その鍼灸師の活動以外に薬膳料理も勉強していて、薬膳のレシピを開発してコミュニティの皆さんと一緒にその薬膳料理を楽しんでいるとか。目が見えなくなって新しく始めた仕事の中でここまでいろいろとできるのだということに感動しました。
 そこから難波さんと付き合ってみようかなと感じて、一緒に横浜美術館のアートトリエンナーレに5、6人で行って、4、5回ソーシャルアートビューを教えてもらう中でルール的なことやマナーなどとビューイベントの楽しさを教えてもらいました。
 それを踏まえてはじめてソーシャルアートビューを単独でやったときに、参加してくれた親子(母娘)にブラインドスケッチ(注10)をやってもらったらこれまたすごく喜んでもらったので、こういうふうにいろいろ企画を考えていくと面白いなと思って3年間続いてきました。

(注10)ブラインドスケッチ:ソーシャルアートビューの活動で行われている、絵を見ずにその絵の特徴を見ている人と対話しながらスケッチするというワークショップ。

アートでちょっと贅沢ができる居場所づくり
 コミュニティ活動にアートを介するコトをおこないたい理由は、「できること」と「好きなこと」の中間にあるからです。私は大学時代から勉強してきたのは「デザイン」なので、美学とか絵画を専門的に勉強してきたわけではないのですが、デザインとアートは近いところにあるので好きは好きなのですよね。
 例えば、非常に良い建築空間に入るとすごく満足する感覚というのがあるのですよね。体験するすべてが「おいしい」というか、細部の導線とか切り取った瞬間の映像とかも美しかったりするわけで、著名なデザイナー、建築家が造った空間はたぶん有名な絵画鑑賞をするのと同じような感覚で、多角的に見えたり感じたりすることができるので、楽しいのかなと思います。そういうことをみんなで楽しむことが、多分私がつくりたいコミュニティ活動での対話シーンなのかなと思うのです。
 視覚障害者の方だけではなくて当然私自身も含めたシニア、小学校高学年からの若い学生さんも私は対象としていて、あまり行っていないですがそのような人たちとの会話も楽しいのだろうなと思います。その対象別にどういうアートを使って対話をしていくかを、企画の中で考えていくことも、実際にイベントを実行していくことも非常に好きなのですね。
 福祉の勉強をちょっとしたときに考えたのですが、普通の暮らしのしくみを作る福祉は、文字通り「神様が立ち止まる」というような感覚に近い。だから、例えば目の見えない人にも絵を見たいとかアートに触れたいとか良い空間にふれてみたいという欲求があって、そのほかの障害者の方もちょっとした贅沢みたいなことを当然欲求として持っているのですけども、なかなか一人ではできないし、そこまでの活動を提供してくれるとか、サポートしてくれるNPOもほとんどいない。過去ソーシャルアートビューに参加してもらった視覚障害者の方からは「もっとやってほしい」「そんな仲間がいないのですよね」という意見もよく聞くので、難波さんも「今後は一緒にやりたい」と言ってくれたのです。だから、二人三脚じゃないけども、難波さんと一緒にそういう方々のために活躍する機会を提供して広げていくことは、体の不自由な方にとっても自分にとっても良いコトなのかなと思っています。

自分も楽しくて、かつ誰かを楽しませる

 ソーシャルアートビューの活動は、社会の誰かのために、という感じです。私は還暦をとっくに超えていますので、自分たちだけ楽しければ良いという段階の心境ではダメだと思っています。自分も楽しくて、かつ誰かを喜ばせていかないといけないなぁと思っているのです(百寿者が持つ多幸感にいたる境地に近づいているのかもしれません)。
 自分はおかげさまで健康な生活をしてきたわけですけれども、今は色々な人がいることがわかってきて、その人たちが健康な人と同じように楽しめる、多様性のある社会であってほしいという時代になっていますよね。だからそのようなことに少しでも貢献できる活動になれば、と思っています。それに、この歳になっても何か目標があった方が良いと思っています。
 新しいことにチャレンジする意欲もあります。ソーシャルアートビューを今後、ご縁のある地域でイベント実施していくのも楽しい目標になると思っています。

明確なコンセプトの必要性
 現在の運営体制は、一緒に活動するメンバーは半年や1年で定期的に変わってしまいます。基本的に私が団体を運営していて、関わっていく人を常に募集している状態です。そのような体制を取らざるを得ない理由としては、やはり自分の中で運営ポリシーが揺らいでいるから、長期的について来ていただける方が少ないのだろうなと思っています。
 今後長いスパンで、私と同じ立場で一緒に考えてくれる方を見つけて引っ張っていくためには、組織としての魅力や活動のコンセプトをもうちょっと固めないといけない。今後はウェブサイトやFacebook、InstagramやYouTube、Twitterなども充実させ、活動を広げ、メンバーも増やしたいと思っています。
 そのときに明快なコンセプトとポリシーがあれば、それぞれのメンバーに任せても組織として全然ブレないはずだと思うのですよね。でも今はまだブレてしまっていて、だから毎年メンバーが変わっている。まだまだ引っ張るだけの運営コンセプトが定まっていない状況です。今のところは、半年と言わずに2年3年と付き合ってくれる方を見つけて引っ張れるように、コンセプトを明確にしたいなというのが課題です。

挨拶できるくらいの関係性へ

 私がこの活動をしているのは、視覚障害者の方に向けてというだけではなくて、地域でのつながりがあまりにもなかったことも関係しています。長い間、都心の霞が関や品川のオフィスと家の往復で地域に知人・友人が全くいない状態でした。
 私が昼間ちょっと街中を歩いていても、ほとんど挨拶する人がいないのですよ。でも、近くに住んでいるのだし、朝や夕方のご挨拶くらいはできる程度の顔見知りになりたいなと思って。そのきっかけになればと思ってこのアートコミュニティ活動をやっている部分もあります。  
 まあ、この活動をやってきたおかげで、街中で挨拶できる人がだいぶ増えてきました。例えば駅前を歩いていると、今まで挨拶できるような人はほとんどいなかったのですが、活動を通して、挨拶できる人が10人くらいはできました。そして、そのようなことが重要なのだろうと思っています。
 昨今、いろいろな意味で「コミュニティを作ろう、つながりを持とう」ということが盛んに叫ばれているのですよ、地域活動の中で。地域の緩やかなつながりを複層的に作っていくという大きなコンセプトが行政の方針であるわけですよね。そのような緩やかなつながりを持つことで、 「地域共生社会」、「社会包摂」の実現になっていくのだと思います。私たちのアートコミュニケーション活動も、つながりのネットワークで挨拶ができたり、災害が起きた時に助け合えたりすることなどをベースとする強い社会に貢献できるのではないかなと思っています。

出会いと対話の場としてのソーシャルアートビュー

 活動のコンセプトは、「練習」「啓蒙」「本番」という3つのフレームで考えてきました。というのも、まず視覚障害者の方々と出会ってコミュニケーションをすることが、私も含めてですが、これまで関わったことのない人たちにとって敷居が高いというか、一つの壁があるのではないかと思ったからです。
 そこで、ブラインドスケッチなど、目の不自由な方と関わるための「練習」のイベントを考えました。そのような「練習」のイベントを通して、目の不自由な方々のことを知ることができ、今後、視覚障害のある方々と付き合う時に、彼らの立場になって考えられるようになったりすると思います。そしてそのような「練習」を、アートコミュニティ活動として展開するために、地域の人と「啓蒙」、「本番」で参加者のみなさんと一緒に絵を見る。このような枠組みでやっています(今後は「啓蒙」イベントではなく、共感する仲間と一緒に「共同」のスタンスで行っていきたい)。
 そして、その中で特に「対話」が非常に重要だなと思っています。アイスブレイクからはじまって、みなさんと話しながら鑑賞し、最後にイベントの感想をみんなで振りかえり、シェアするという流れで、みなさんと対話していく。そして、その中で知り合いが増えていく、という感じだと思っています。
 例えば、私の妻は最初、絵画鑑賞にはあまり興味を示していなかったのですが、いろいろアイデアとかを出し合うのに参加してくれ、毎回、仕事があるなかでも飛び入り参加もしてくれたりして、ソーシャルアートビュー活動には最初から関わってくれています。回を重ねて、今ではみんなと一緒に絵を見て対話することが好きで楽しいと言ってくれています。みんなと一緒に絵を見ることで多角的に見えてくる発見や探索そして対話の歓びを感じてくれているのだと思います。
 また、参加者も絵を見ること自体への興味に加えて、視覚障害者の方々も含めた色々な人と対話することや、一緒に絵を見たりしたいって思っている方が多い感じがします。
 参加者へのアンケートでは、視覚障害者の方と話すのが楽しかったとか、触れ合うハードルが下がった、などのように感想を書いてもらえています。

みんなで対話しながら同じ作品を鑑賞するのがソーシャルアートビューの面白さ。

絵を選ぶことも楽しい

 いざ企画・実施するとなると結構やることが多いです。例えば、イベントのときにみんなで鑑賞する絵も私が選んでいるのですが、イベント本番で会話が弾むためには、どのような絵を選んで、どのような会話をしようかなと、あらかじめ想像しておく必要があります。
 絵の詳しい知識までは必要なくても、自分自身でこの絵のディティールをきちっと見て、自分はこの絵のどこが美しくてどこが好きなのだろうということをある程度考えてから提示しないといけない。でもまあそういうことも経験していくと、だんだん慣れてきて楽しくなってきます。絵を選ぶことも楽しい作業になってきました。

自分でできる範囲でちょっと良いことを

 自分は普通のサラリーマンをやってきて長い人生の後半に来ていて、もっといろんなことができただろうなと思います。思いはあってもアクションができない。そんな人ってものすごく多いと思うのですね、私自身もそうですから。
 例えば東北の大震災の時に、ボランティアに行きたいなと思うけど、仕事も抱えているし、自分が行ったところで何ができるのだろうという思いでニュースをずっと見ていました。ボランティアしている人の話とか興味があっても自分がアクションを起こせない……。
 でも、身近な場所でも探してみると困っている方がいて、東北だけじゃなくて身近にもいるわけですよね。そしたら自分にとってもそんなに敷居が高くなくて、福島まで行かなくても自分でできる範囲でちょっと良いことはできそうだなというのがわかってきました。やっぱり体の不自由な人ってほんとに苦労しているというのがわかるし、だからちょっと良いことができるのであれば、自分も楽しいし、彼らと一緒に楽しむことで彼らも喜んでくれるのであればやろうと思って開催しています。

お金が回る構造作りとクリエイティブな仲間集め

 今後はナビゲーター役にこれくらい払うので参加者の皆さんもこれくらい払ってくださいみたいなお金の構造まで作って、お金が回るようにしていきたいです。
 お金が回るということは価値があるということ。価値をお金に変えていくところまで来ないと、いくらNPOの活動でも継続しにくいと思うのですよね。今はまだ常に一定の価値をサービスとして提供できる自信がないので無料でやっていて、補助金があるからやれるわけですけど、補助金もずっと続くわけじゃないので。本当はお金をとってその対価としてサービスが満足できるレベルなのかを測る段階まで持っていきたいと思っています。
 組織のビジョンとかコンセプトを明確にして、それが参加者にもサポーターの人たちにもより明確に伝わって、お金も回る構造にしていかないと本物にならないなと思っています。
 まだまだいろんなイベントが考えられるなと思っていて、クリエイティブな人たちをいかに仲間として、運営側として参加してもらうかというのが今の大きな課題です。いろんなイベント開発がしたいのです。楽しめること、クリエイトしていくことをやりたいのですけど、それはやっぱり一人ではなかなか無理なので、まずその前提として仲間づくりをしていかなくてはいけない。まだ足りないものだらけなのですけど。

コロナ禍ではオンラインとオフラインを両立した形で実施に挑戦。

  

広域でも、地域でもネットワークを広げていきたい

 今後は自分のこれまでのご縁を大事にして、広域的なネットワークを広げていきたいですね。新しい時代は広域的なつながりが大事になっていくので、その意味でもアートコミュニティ活動は役に立つだろうなと思っています。
 私は金沢、大阪、東京で暮らしてきてそれぞれの場所に友達がいるのですが、今後このイベントがきちっと完成されれば遠方の友達ともやっていけると思うので、そうなると面白いですね。オンラインのネットワークでもただの文通的なコミュニケーションだけではなくて、こういったアートを介した感性的なつながりを持った友達も持っておくと楽しい人生になるだろうし、そういうネットワークがあれば災害などの緊急時にもリスク回避の一助にもなるし、いろんな意味でいいのかなって思っています。
 やっぱり今の住所は武蔵野市なので、地域の仲間づくりを自分の活動を通してやっていきたいというのが一番、今の思いとしては強いですね。自分が住んでいるところに一番貢献しなければいけないという思いもあるし、補助金ももらっているので。行政が掲げている地域包括ケアネットワークも、地域のつながりを増やしていこうということだと思うので、そういうことにも繋がって貢献できればとても良いと思っています。

おわりに
 オンラインで行われたインタビューでは、プレゼン資料を画面共有していただきながら、聞き手の私たちにも分かりやすい語り口で林さんご自身の思いをお話ししていただきました。日本のオフィス改革の最前線に立ち、活躍してきたファーストキャリアを引退された後も、ご自身のやりがいを求め精力的に、そして試行錯誤しながらソーシャルアートビューの活動に取り組まれている姿が印象的でした。私たちは2020年10月からNPO活動クリエイティブライフデザインの活動に参加してきましたが、ソーシャルアートビュー体験を通じて、林さんや難波さん、そして他の参加者の方々と「出会い」、「対話」の楽しさを再認識できたように感じています。
 末筆ながら、インタビューにご協力いただいた林賢さんに心よりお礼申し上げます。

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NPOクリエイティブライフデザイン公式サイト<https://npocld.org/
facebook <https://www.facebook.com/npocld/
ボディケア・キッチンるくぜん公式サイト<https://luxen.jp/

第二部 林賢さんインタビュー編” に対して2件のコメントがあります。

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